ミステリー好き大学教員の気ままなレビュー

とある私立大学のボンクラ大学教員がミステリーのレビューをメインに気ままに思ったことを書きなぐるブログです。

【映画レビュー】鑑定士と顔のない依頼人※ネタバレあり

 

 監督トルナトーレ×音楽モリコーネが仕掛ける、豪華で知的で刺激的な謎が散りばめられた“極上のミステリー"。
真実が明らかになる時、誰もがその“衝撃"にのみこまれる―!

という触れ込みのこの映画。ミステリーとしてみるとがっかりすること間違いなしであり、恋愛映画としてみるのが正しいのかもしれない。

 

この映画の始まりは、優れた鑑定眼をもつオークショニア(競売人)のヴァージル・オールドマンの所に資産家の両親が死んでしまい、その広大な屋敷に残された美術品の査定をしてほしいという依頼が若い女性から舞い込むところから始まる。

 

これは一見ありふれた依頼だったが、依頼人は様々な口実を作ってオールドマンの前に姿を現さない。この依頼人の態度のオールドマンはたびたび苛立ちを覚えるが次第にこの依頼人がどんな人物か気になるようになり…

 

※以下ネタバレ注意

 

というような内容なのだが、この若い依頼人がオールドマンを騙そうとしているというのは映画を観だすとすぐに予想がついてしまう。そして、その予想は(悪い意味で)最後まで裏切られることなく、「ふーん、やっぱりね」で終わりを迎えることになる。

 

だから、ミステリーとしては2流、3流もいいとこだ。

 

ただ、恋愛映画として観るともしかしたら評価が違ってくるのかもしれない。

 

騙されたかわいそうな老鑑定士オールドマンは、他人や物に触れるのを極度に嫌い、常に手袋をしているというちょっと変わった性癖をもつ人物だ。

 

そして、それゆえに彼はもう老人といっていい年齢になっているにもかかわらずこれまで恋愛をしたことがなく、自身のオークションハウスで出品された女性の絵画を集めて満足している生粋のチェリーボーイなのだ。

(自分が童貞だったことを伝えるシーンが個人的には一番面白かった)

 

そんな彼が、「顔の見えない依頼人」に会い、人生で初めて人を好きになる。そして最後に騙されたことが分かった後も愛し続け、彼女を探し続けるというストーリーとして観れば、間違いなく恋愛映画である。

 

ただ、そうなってくると邦題の「鑑定士と顔のない依頼人」は今いちだ。彼が集めている女性の絵画は作中でなんども「最高の出品物(The Best Offer)」と言及されており、これが原題でもタイトルになっている。そう考えると、彼にとって「顔の見えない依頼人」は「The Best Offer」であり、まさに彼が人生を通じて求めてきた女性像だったはずだ。そうしたオールドマンの想いが邦題からは全く伝わってこない。

 

というわけで、僕自身恋愛物は全く好きではないのでこの作品が恋愛物として優れているかどうかは分からないが、少なくともミステリーを期待して観た僕にとっては2時間を返してくれと思うぐらい退屈極まりない内容だった。

 

※追記

どうやら映画の元となった小説はわずか80pほどの短編小説らしい。それを映画にしたらそりゃあ中だるみするわな。

 

鑑定士と顔のない依頼人

鑑定士と顔のない依頼人