ミステリー好き大学教員の気ままなレビュー

とある私立大学のボンクラ大学教員がミステリーのレビューをメインに気ままに思ったことを書きなぐるブログです。

【読書レビュー】リンカーン弁護士(上・下)講談社文庫、マイケルコナリー著

 

リンカーン弁護士(上) (講談社文庫)

リンカーン弁護士(上) (講談社文庫)

 

初めて読んだアメリカのリーガルサスペンスという分野の小説。amazonの評判が良かったので読んでみたが、上巻の終わりに差し掛かるまでは正直に言えば「失敗だったかな」という考えがところどころ頭によぎっていた。しかし、その上巻の終わり頃になると、依頼人の裏の顔とそのしたたかさに驚かされ、ハラーがその苦境をどう切り抜けるのかが気になって物語に一気に引き込まれてしまった。

 

結局、上下巻を読み終わってから、映画化されているとしってamazonプライムビデオで映画版まで観たり、続編に手を出すまでにハマってしまった。

 

 主人公は、事務所をもたず、安売りの際に買った高級車リンカーンを事務所がわりにつかっている刑事弁護士のミッキー・ハラー。彼は、事件の“真実”には興味がなく、依頼人への求刑をあの手この手を使っては軽くさせることに力を注ぐ、”悪徳弁護士”とも見られかねないような弁護士だ。

 

とはいえ、それで大金を稼いでいるかと思いきや、さにあらず。彼は家のローンの支払いのために毎日ちゃちな裁判をして小銭を稼ぐ日々を過ごすという生活に追われていた。

ところが、そんな彼に暴行容疑で逮捕された不動産経営者の息子・ルーレの弁護依頼が来る。これまでにない高額の報酬に意気込むハラーだが…

 

※ネタバレ注意

というふうに物語は始まる。

 

この暴行容疑で逮捕されたルーレが、お母さんやそのお母さんと長年の付き合いのある弁護士の顔色を伺ってばっかりのボンボンかと最初は思っていた。

 

しかし、読み進めると、この依頼人ルーレ、実にくせ者だ。実はルーレはこれまでにも何件もの暴行事件を犯しており、それを他人に上手くなすり付けることで悠々と警察の目から逃れてきた知能犯なのだ。そして、かつてハラーが担当し、依頼人を刑務所送りにしたとある事件の真犯人でもある。

 

ルーレはそれを知っていて、ある企みをもってハラーに弁護を依頼したのだ。さらにハラーがルーレを裏切れないようにハラーを計略に掛けてしまう。

 

初めてリーガルサスペンスを読んだのだけど、この依頼人が弁護士を手玉に取って脅してくるというのは個人的には意外な展開で面白い。依頼人が真犯人というのはよくあるタイプの話だと思うのだけど、そこにさらにひとひねりを加えている所に「コナリーさんやるね!」と思わざるをえない。

 

また、無実の人間を刑務所送りにしてしまったことを悔やみ、しかし守秘義務ゆえにルーレを追求できないというジレンマに悩むハラーが見事にその両方を解決するような策を見いだしていく様は痛快でもある。

 

全体的に非常に面白かったので、続編の『真鍮の評決 リンカーン弁護士 (上) (講談社文庫)』をすぐにamazonでポチってしまった。

 

ちなみに、映画の『リンカーン弁護士 (字幕版)』は正直、小説を読んだ後だといまいちだ。時間の関係もあるのだろうけど、人物の描写が浅くなってしまっていたり、ルーレたちの怖さを引き立てるためのエピソードがあっさりとしたものになっているせいで、ルーレたちの怖さが今いちピンと来なくなってしまっている。

 

時間が無い人やあまりお金を掛けたくない人(amazonプライム会員ならただで見れる)は映画を観るのもありだと思うが、時間に余裕がある人はぜひとも小説を読んでしっかりとコナリーワールドにハマってほしい。