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ミステリー好き大学教員の気ままなレビュー

とある私立大学のボンクラ大学教員がミステリーのレビューをメインに気ままに思ったことを書きなぐるブログです。

【映画レビュー】マーシャル・ロー (字幕版) ※ネタバレあり

 

 サスペンスアクション好きにも、メッセージ性の強い社会派映画好きにもおススメできる良作映画だ。

この物語は、サウジアラビアのアメリカ海兵隊駐留基地が爆弾テロに遭い、大勢の海兵隊員が死亡するというテロ事件の首謀者シーク(教主)ことアフメッド・ビン・タラールをアメリカ陸軍が拉致する場面から始まる。

 

このシークの拉致に対して怒ったテロリスト達がアメリカ本土でシークの解放を求めて次々と爆弾テロを起こすようになる。

 

この一連のテロ事件の捜査を指揮するFBIのアンソニー・ハバード(デンゼル・ワシントン)は、CIAの”エリース”らと協力しながら犯人を追いつめていく。

 

※ネタバレ注意

本作を観れば、アンソニーらがバスジャックしたテロリストたちと交渉し、人質を少しでも解放しようとするシーンは息をのまざるを得ないし、果たして次のテロを防ぐことができるのかとドキドキしっ放しとなることは間違いないだろう。

 

ただし、それも最初の1時間ほどだ。

おそらく、本作の脚本家であるローレンス・ライトと監督のエドワード・ズウィックがこの映画に込めたメッセージは、テロへの脅威と、その脅威が高まることによってほぼ必然的に生じるであろう軍隊の権力拡大への警鐘である。

 

前半の1時間において、テロは突然に起こり、社会的な成功者と敗者、強者と弱者の区別なく、誰にでも降りかかってくる火の粉であることを十分に印象づけることに成功し、かつそれを観客に飽きない形で提供することができている。その意味でテロへの脅威に対して警鐘を鳴らすことは大いに成功したと言っていい。

 

しかしながら、後半の軍部の権力拡大の場面では、ややその描写が冗長になってしまっているように思う。軍部の権力拡大はスリルのある形で描写されているわけではなく、多くのアラブ系住民が軍隊によって誰彼構わず拘束されていく様が延々と流れるだけだ。そのため、途中で「もう軍隊の怖さは分かったから次の展開に向かってくれよ」と思ってしまう。

 

もちろん、これは脚本家や監督にケチをつけているわけではない。この『マーシャル・ロー』は、1998年というまだアメリカでもテロの脅威がさほどなかった時期に製作・公開されたものだ。だから、こうした軍部の権力拡大への脅威をたっぷりと時間を割いて描写することには、アメリカ国民への啓発という意味では必要だったと思うし、この映画を90年代の後半に製作・公開するという先見の明には感服する他ない。

 

ただし、残念ながら、もはや僕たちはテロの脅威とその予防のために、どれだけアメリカ国民が不便を強いられ、また軍隊がどのように動くをある程度知ってしまっている。そのため、どうしても今の僕たち(少なくとも僕には)にはお説教じみた後半が映画への興味を失わせてしまうのだ。

 

それにしても、CIAの”エリース”の無能っぷりはなんとかならなかったのか。このエリースにはアラブ系の情報提供者がおり、情報を提供してもらうために男女の関係になっている。この男について、FBI捜査官のアンソニーが何度も「あいつは本当に信用できるのか?」と至極まっとうな意見を述べ、おそらくほとんどの観客が「怪しいよな」と思っているのだけど、CIAのエリースは「信用できる。間違いない。」と答えていて、やっぱり最後にはこいつがテロリストでした、というオチだ。しかも、その事実を知った際にひどく動揺して死んでしまう。この死には感動というよりも、拍子抜けというか渇いた笑いしかでてこなかった。

 

とはいえ、全体的を通して面白い作品であることは間違いない。ここに書いた映画のメッセージ性やサスペンス部分だけでなく、FBIとCIA、軍隊の組織間対立など見どころは多くある。暇つぶしをしたいのであれば、観るに値する作品だと思う。