以前にも紹介した『リンカーン弁護士』の続編となる本作は、期待を裏切らない鮮やかな弁護に爽快感を感じることができる非常に面白いリーガルサスペンスだ。
(前回の記事はこちら:【読書レビュー】リンカーン弁護士(上・下)講談社文庫、マイケルコナリー著 - ミステリー好き大学教員の気ままなレビュー)
リンカーン弁護士ことミッキー・ハラーは前作で負った傷よる休養明けからゆっくりと法曹界に復帰しようとわずかな弁護依頼をこなしていた。
そんな中、これまた前作でハラーによって完膚なきまでに叩きのめされたために検察官をやめ、刑事弁護士へと転職を果たしていたヴィンセントが何者かによって殺害されてしまう。
(前作ではハラーにボコボコにされ、今作では早々と殺されてしまう。なんとも不幸な人物である。)
ヴィンセントの顧客を引き継ぐことになったハラーは、その中の顧客の1人である映画制作会社のオーナー、ウォルター・エリオットによる妻とその愛人殺害事件に携わることになる…
※以下ネタバレ注意
本作のミステリー的要素と言えば、元検事のヴィンセントがなぜ、誰に殺されてしまったのかと、ハラーがどうやって依頼人を無罪に持ち込むのかという点だろう。
ただ、ヴィンセント殺害の真犯人とその動機については、そのタネ明かしまでに読者に十分な情報が提供されていないと思われるため、それほど面白いものでも、ハラーの手腕に感動するようなものでもない。
むしろ本作の面白さは、アメリカの司法制度における陪審員の重要さを知ることが出来る点と、ハラー弁護士の法廷での伏線の張り方とその回収にある。
前作の『リンカーン弁護士』でも、ハラーは法廷で弁護をする際、陪審員に被告人が無罪であるかのような印象をいかに植え付けるかに気を使っている様が描かれていた。
今作ではそれに加え、そもそも陪審員を選ぶプロセスがいかに重要か、そしてそこでいかなる駆け引きが行われているのかがたっぷり描かれている。
陪審員候補の中から、誰が検察よりの判断をしやすそうか、また弁護士よりの判断をしやすそうか見極める。そして、検察も弁護士も互いに相手の味方になりそうな陪審員候補をある時は偏見に満ちているという理由で、またある時は20回だけ使用できる「専断的忌避権」を使うことで排除していくのだ*1。
ハラーはこの敵・味方を見極めるためにわざわざ表情を読むプロフェッショナルを雇うほどであり、選定プロセスが10時間以上にも及ぶ。
こうした日本では馴染みのない陪審員制度の裏側を知ることができるのもアメリカのリーガル・サスペンスものならではの面白さだろう。
また、ハラーの弁護の鮮やかさにも今回は舌を巻く他無い。この部分はぜひとも本作を読んで体感して欲しいので詳しくは言わないが、もし自分があれほど思い通りに議論を持って行ければさぞかし楽しいだろうなと思わされる。
それにしても、最後の終わり方はやや気になる。せっかく休養明けからの華々しい復帰劇を演じたにもかかわらず、法廷でのあることがハラーの心に重くのしかかっており、弁護士という職業から手を引きかねない雰囲気が漂っている。
果たしてリンカーン弁護士はどうなってしまうのか、と気にしている自分がいて、すっかりリンカーン弁護士シリーズにハマっていることに気づかされる。今作も非常に満足度の高い作品だ。