ミステリー好き大学教員の気ままなレビュー

とある私立大学のボンクラ大学教員がミステリーのレビューをメインに気ままに思ったことを書きなぐるブログです。

【映画レビュー】 レッド・オクトーバーを追え! (字幕版)※ネタバレあり

 

レッド・オクトーバーを追え!』は、手に汗握る展開でついつい夢中になってしまう男臭さ満載のサスペンスアクション大作だ。

 

この物語は、冷戦下のソ連、ムルマンクス湾より新型原子力潜水艦「レッド・オクトーバー」が出航する場面から始まる。

 

なんと、この「レッド・オクトーバー」は無音で航行することが可能であるため、ソナー探知でもくじらと見分けることができず、簡単にアメリカの警戒網をくぐってアメリカ本土に原爆を発射することができる、という恐ろしい潜水艦だ。

 

しかし、「レッド・オクトーバー」の艦長であるマルコ・ラミウス(ショーン・コネリー)は、出航後、乗艦していた政府士官を殺害し、政府からの命令書とは異なる行動を取り始める。

 

果たして、ラミウスは精神に異常をきたし、アメリカに原爆を発射しようとしているのか、それとも別の理由があるのか…

 

 ※ネタバレあり

潜水艦を扱った物語を読むのは小学生の時に兄の影響ではまったかわぐちかいじ著の漫画『沈黙の艦隊』以来だが、やはり物語の舞台が潜水艦だけあって1つのミスが死につながりかねないという緊迫感は観る者を惹き付ける力がある。

 

amazonの紹介ページには、「ソ連最新鋭の潜水艦の目的は奇襲か?亡命か?」と銘打ってはいるが、物語の早々にラミウスが亡命を目論んでいることは明らかになる。

 

むしろ、この物語の面白みは、潜水艦という海の中で活動する乗り物の性質上、互いにコミュニケーションを取ることが難しい状況下でどのように相手の意思を理解するかという所や、アメリカ側とソ連側の政治的駆け引きにあるのではないだろうか。

 

ラミウスがアメリカに亡命を企ているとアメリカ側が予想したとしても、安易に近づいたり、アメリカ本土に受けれてしまえば、その予想が間違いだった時には悲惨な状態が待っている。それゆえに、アメリカ側は慎重に行動せざるを得ず、少しでも不審な行動を取れば、即撃墜せよという指令を出さざるを得ない。

 

もちろん、単にラミウスが亡命したいと言っているだけでは信用することはできない。これはゲーム理論ではチープトーク(cheap talk)と言われる、全く意味のない発言だからだ。なぜなら、ラミウスがアメリカ本土に奇襲を加えたいと思っていても、「俺は奇襲がしたい」などと言う訳はなく、少しでも相手を油断させるために「亡命したい」などの理由を言う可能性が高いからだ。だから、「亡命したい」という言葉の信憑性はゼロに等しい。

 

そのため、ラミウスは相手に自分の意図を伝えるために行動するしかなく、かつ1つたりとも行動の過ちを犯すことができない。そして、その行動の意図を正確に読み取ることのできる人物もアメリカ側に存在しなければならない。

 

それが観るものにハラハラドキドキ感を与え、目が離せなくなるのだ。

 

また、亡命を受け入れるにせよ、ソ連が何百億もの開発・建造費をかけた最新鋭の潜水艦をソ連に返却せずに、ただで手に入れよう策を練るアメリカ側のしたたかさも見所の1つだ。

 

そして、そのアメリカ側の企みが予想以上にうまく行き、ソ連大使館の顔が苦悶に歪む様子と、アメリカのしたり顔は思わず笑ってしまう。

 

安易な映画は男性の視線を釘付けにしようと魅力的な女性を登場人物に置きたがるが、そんなことをしなくても脚本や演出をしっかりすれば、十分に面白い映画を作れるという良い見本だろう。