ミステリー好き大学教員の気ままなレビュー

とある私立大学のボンクラ大学教員がミステリーのレビューをメインに気ままに思ったことを書きなぐるブログです。

【映画レビュー】フィラデルフィア (字幕版)※ネタバレあり

 

 映画『フィラデルフィア』は、エイズへの偏見・差別を扱ったトムハンクスの名演技が光る涙なしには観ることのできない社会派映画だ。

 

フィラデルフィアの名門法律事務所で働くベケットトム・ハンクス)は、パートナー*1たちからその手腕を高く評価されており、若くしてシニアアソシエイトに昇進したり、事務所にとって重要な案件を任せられるほどだった。

 

しかし、シニアアソシエイトに昇進して間もなく、ベケットが書き上げたはずの重要な訴訟状がなぜか消えてしまい、その責任を負わされる形で突如解雇を通知される。

 

なぜ、重要な書類がなくなってしまったのか…

 

実は、ベケットHIVに感染しており、それに気づいたローファームがHIVのような病気にかかるような奴とは共に働きたくない、とミスをでっちあげていたのだ。

 

これに気づいたベケットは、かつて自分を雇っていた法律事務所への不当解雇を訴えるべく、自身の弁護をジョー・ミラー弁護士(デンゼル・ワシントン)に頼みに行く。

 

果たして、優秀な弁護士を抱える名門法律事務所に勝つことができるのか、またHIVや同性愛への不当な差別に打ち勝つことができるのか。

というのが、この映画の序盤である。

 

本作の見どころは、HIVへの偏見とその根の深さを見事にあぶり出したことと、トム・ハンクスら出演者の名演技にある。

 

現在では、HIVに感染したとしてもエイズの発症を抑えたり、発症していたとしても初期段階であればその進行を抑えたりと、HIVに感染したとしても必ずしも死に至る病ではない。

 

しかし、本作が公開された1994年頃ではまだそうした治療法が確立されておらず、ほぼ間違いなく死んでしまう病気だった。そのため、HIV感染者との接触に対して異様なまでの恐怖が当時はあったのだろう。 

 

 ベケットジョー・ミラーに自身がHIVであることを打ち明けた瞬間のベケットとミラーの距離感や、その視線をさりげなく見せることで時にさりげなく、また法律事務所のパートナーたちに「奴は事務所にエイズを持ち込んだ!」と怒り狂う様を見せることで時にあからさまに、この映画を観るものにその恐怖心を提示している。

 

もちろん、今ではHIVの感染経路が性感染や血液感染によるもので、手を握った程度やしゃべっていて唾液が飛んできたという程度では伝染しないということは多くの人が知っているだろうし、僕も頭では理解している。

 

しかし、これまで共に温泉に行ったり、至近距離で話したりしてきた友人が突然「俺、HIVに感染した。」と告白してきたら、果たして冷静な反応を見せることができるだろうか。正直に言えば、僕は自信がない。

 

また、この恐怖心が同性愛への嫌悪感とも結びついているからタチが悪い。

 

最終的にベケットの弁護をすることになったミラですら、最初は「ホモは嫌いだ。手も触れられたくない男だ」と妻に言っているほどだ。

 

ベケットとミラーの両弁護士はこうした2つの偏見と差別とも裁判を通じて打ち勝たなければならないのである。

 

こうしたHIVへの偏見を見事に描いただけでなく、HIV患者を演じるトム・ハンクスの演技も鬼気迫るものがある。次第にやせ細り、目も虚ろになりながらも法廷に立ち、最後には倒れてしまう様は観てるものに涙を誘う。

 

おそらく、この映画を高校生や大学生の時に見ても、この映画に感動することはなかっただろう。こういう映画と出会った時に、年を取ってしまったことを痛感する共に、人としての成長を感じることができる。こうした喜びを得ることができるのも映画の醍醐味だ。ぜひとも、大人な人には観てほしい作品である。

*1:アメリカの法律事務所で「パートナー」というのは、いわば経営にも参加している弁護士のことを指す。彼らは、固定の弁護士報酬ではなく、弁護士事務所が稼いだ利益の一部を報酬として受け取ることができる一種の株主のようなもの。