ミステリー好き大学教員の気ままなレビュー

とある私立大学のボンクラ大学教員がミステリーのレビューをメインに気ままに思ったことを書きなぐるブログです。

【読書レビュー】すべてがFになる※ネタバレあり

 

すべてがFになる (講談社文庫)

すべてがFになる (講談社文庫)

 

 

 『すべてがFになる-THE PERFECT INSIDER-』は、アニメ化されているなど人気が伺える作品ではあるが、とんでもトリック系のがっかりミステリーだ。

 

愛知県・妃真加島(ひまかじま)にある真賀田研究所は、トップの真賀田四季博士を始め、優秀な研究者が集まる研究所である。


この真賀田研究所の所長である真賀田四季博士は、「人類の中でもっとも神に近い」と評される天才だったが、15年ほど1人で研究室に籠ったきり誰もその姿を直接観たことはなかった。

 

国立N大学で助教授をしている犀川創平は、研究室のメンバーや恩師の娘である西之園萌絵とともに、真賀田研究所に訪れていた*1

しかし、そこで手足が切断された真賀田四季と思われる死体が発見される…

 

※ネタバレ注意

大学の教授が書いたミステリー小説だということでさぞかし論理的なトリックを見せてくれるのだろうと期待して読んだのだが、その期待は叶わぬ夢であった。

 

まず真賀田四季の設定が痛々しい。若干14歳ほどでMITの博士号を取得し、ありとあらゆる分野で的確な意見を出すことができる天才で、その頭脳を求めて様々な巨大企業や裏の組織から援助を受けている。そして、過去には両親を殺害した経験をもち、殺人すら彼女にとってはタブーではない。

 

書いていてこっぱずかしくなるような設定である。まあ、そこはいいとしよう。

 

経済学などの学問では、「ある仮定を置き、その仮定があるなら論理的にはどのような結果が導きだせるか」ということが重要となる。仮にその「仮定」が現実離れしたものであっても、そのロジックが正しければ、その結果をもとに少しずつ現実に合うように修正を施していくことで、最終的にはこの複雑な世の中を理解するのに役立つと考えているからだ。

 

つまり、仮定が多少現実離れしていたとしても、その仮定が間違っているとバカにするのは野暮というものなのだ。

 

しかしながら、肝心のトリックが「はあ?」と思ってしまうようなものなのだからタチが悪い。

 

実は、真賀田四季だと思われた死体は、真賀田四季の娘の死体で、本人はピンピンとしているというのだ。

 

真賀田四季は、自身の研究所を設立した際に実は身籠っており、この事件を起こす3年前からモニターには娘を出すようにして、四季の顔を誤認させたあげく、14歳になった娘を四季のように偽装して殺していたのだ。

 

このトリックには驚愕せざるを得ない。果たして、誰が15歳の少女をアラサーの女性を間違えるというのだろうか。もし、あり得るとしたらとんだロリ顔のアラサーと老け顔の14歳である。これが親子だというのだから森博嗣氏のロジックにはただただ感服するのみである。

 

また、いくら手足が切断されていたりとショッキングな死体であっても、顔を見たらさすがにちょっと「若すぎない?」と疑問に持ちそうだが、それを真剣に考える人は誰もいない。

 

「おいおいおいおい、さすがにそりゃねえだろ」と思わず突っ込みたくなってしまう。

 

他にも、一人一人の行動に納得のいかないことも多く、人物の深みに欠けるといった印象だ。

 

たまに「文系は作者の気持ちでも考えてろよ」と文系が揶揄されているのを見るが、さすが人の心を解さない理系の小説である。

*1:ちなみに、現在は「助教授」という職位は存在していない。「教授を助ける」という肩書きが、助教授を教授の助手のように誤解させてしまうというのが理由である。そのため、いまでは「准教授」と呼ばれるようになっている。また、大学の先生の階級は、教授、准教授、専任講師、助教という順になっている