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ミステリー好き大学教員の気ままなレビュー

とある私立大学のボンクラ大学教員がミステリーのレビューをメインに気ままに思ったことを書きなぐるブログです。

【映画レビュー】誘拐※ネタバレあり

 

今年度ワーストレベル

「最近洋画ばかり見ているから少し邦画でも見るか」と思い、Amazonでのレビューではかなり評価が良かったこちらの作品を鑑賞したが、ストーリーも役者の演技もイマイチで最後まで見るのが苦痛なWOWOWドラマだった。

 

 韓国との歴史的な日韓友好条約締結を目前に控えた警察は、北朝鮮によるテロを警戒し、職員の8割もの人員を韓国大統領の警護に充てるなど万全の体制を整えていた。

 しかし、その厳戒態勢の最中、現職総理大臣である佐山首相(石坂浩二)の孫娘(三吉彩花)が誘拐され、犯人から日韓友好条約締結の中止と30億円の身代金を要求される。

 犯人の秋月(三上博史)はいかにして30億もの大金を受け取るのか、それを追う星野(西島秀俊)は犯人を追いつめることができるのか。 

 

※以下ネタバレ注意

レビューでは脚本がしっかりしていると書かれていたが、僕は全くそう思わない。 

 

犯人の犯行計画のずさんさに疑問

一つは、犯人の“綿密”に練った計画だ。

 

彼は、首相の孫娘を誘拐した後、それを首相に信じさせ、かつ脅すために首相が孫娘にプレゼントしたハンカチに赤いペンキを塗りつけたものと学生証を送りつけている。

 

この誘拐事件の担当刑事である星野は、この犯人の行動に対して「通常は、要求をのまないと人質に危害を加えること信じさせるためにどんな少量でも人質自身の血を使うはずです。しかし、この犯人は調べればすぐにわかる赤いペンキを塗っている。これは犯人から人質には絶対に危害を加えない、というメッセージではないでしょうか。」と上司に意見をしている。

 

もし、この星野のセリフが犯人の意図を代弁させているのなら、「いやいやいや、そんなメッセージを送っちゃあダメでしょ。」と突っ込まざるをえない。そんなメッセージを伝えてしまい、警察や総理が「じゃあ、言うこと聞かなくても大丈夫だね」と安心してしまえば、明らかに犯人側の要求を聞いてくれなくなる可能性が高まる。そうなってしまえば、当然犯人の目的も達成されない。

 

もし、本当に危害を加えるつもりがなくとも、そんなメッセージを犯人が警察や総理に伝えようとする意味が全くない。自分が人質を傷つけなければよいだけの話だから。

 

身代金の受け取り方はひねってはいるが・・・ 

もう一つの不満は、金の受け取り方法である(おそらく物語の一番面白い所ではあるので、このドラマを見ようと思っている人はこれ以降読まないことをおすすめします)。

 

たしかに、今回の金の獲得方法は一ひねり加えたものではある。

 

最初に要求した30億円はいわばウソの要求で、本当の目的は総理を使った株式市場の市場操作にあった。総理にある特定の銀行を名指しで批判させる。それによって、その銀行の株価が低下した所で大量に株式を購入する。その後、再び総理に会見を開かせ、「前回の批判は全く的外れだった。損失補てんのための公的資金の注入も考えている。」などと発言させることで、株価が上昇した所で売り抜ける。

 

以上のような方法である。これを読んだみなさんはこんな行動を取ってしまう総理をどのように感じただろうか。この総理の行動を「孫娘のために自分の総理としての地位を投げうってまで行動するなんてすばらしい!」と称賛できる人はおそらくこのドラマも面白いと思える人なのだろう。

 

しかし、僕は違う。むしろ最初に思ったのは「こんな責任感のない人間が総理になれるのか?いや、なれないんじゃないの?」という違和感だった。しかも、この総理、ラストシーンでは「私は学んだよ。人の命も、人の幸せも金では買えないということを」とどや顔で言っているが、「お前は誘拐犯に儲けさせて娘の安全を守ろうとしたんだから、金で買っとるやないか。しかも、お前が株価を操作して大損こいた人の中には不幸になった人もおるはずやぞ。何を寝ぼけたことを言っとるんや」と突っ込まざるを得ない。製作者は日本の総理大臣にまで登りつめた人間がこんなことにも気づかない馬鹿だと本当に思っているのだろうか。せめてもう少し賢く描けなかったのか。

 

さらに言えば、この株取引で生じた利益をどのようにして犯人は銀行から引き出したのかという点が全く描かれていない点も不満ではある。犯人は盗んだ運転免許証を使って証券会社と契約し、その口座を使って取引を行い、見事に4億円もの大金を手にした。

 

まあここまではいい。しかし、肝心のその証券口座からどうやって犯人はお金を引き出したのだろうか。4億もの大金だ。直接受け取りに行けば、必ず証券会社や銀行の監視カメラに顔が映ってしまう。かと言って、送金するにせよその送金先を警察が丁寧に追っていけばいずれはその行方に気づいてしまうはずだ。しかも、警察は物語の終盤で、犯人が誰の免許証を盗んで株取引を行ったかまで掴んでいるのだ。それにもかかわらず、警察は人質が無事帰ってきたからもう捜査本部は解散するという。「おいおいおい、犯人はまだ捕まってないぞ!しかも、総理の孫娘を誘拐した犯人だぞ!」と突っ込まざるを得ない。

 

もちろん、個人情報保護に定評のあるスイスの銀行を使ったという可能性はある*1。ただし、もしそうならそこにも一言触れるべきだ。何せ一言触れればよいので、ほんの10秒程度でよいのだ。

 

このように、色々とこのドラマの脚本にはアラが見えてしまい、どうも物語を真剣に観る気が失せてしまった。

 

それにしても、西島秀俊石坂浩二の演技ってこんなに下手だったかな。どうもチープだ。

*1:ちなみに、ゴルゴ13などでよく出てくる「スイス銀行」なる銀行は存在せず、スイスにある銀行の総称である。また、個人情報保護に厳格と言っても、犯罪にかかわるお金だと分かった場合にはマネーロンダリング条項によって通報義務がある。