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ミステリー好き大学教員の気ままなレビュー

とある私立大学のボンクラ大学教員がミステリーのレビューをメインに気ままに思ったことを書きなぐるブログです。

【読書レビュー】マイクル・コナリー『証言拒否』※ネタバレあり

 

 

法廷での弁護は面白いものの、ラストはやや水戸黄門的なマンネリ感も

リンカーン弁護士シリーズ第4作目となった本作は、プロセス自体は面白いものの、犯人を懲らしめる方法としてはややマンネリを感じさせるものとなってしまった。

あらすじ

時は2012年、サブプライムローン問題が大爆発した後のアメリカ*1リーマンショックによって景気が急速に悪化したアメリカでは、金をもっている犯罪者が減少した結果、弁護料が安い公選弁護士への依頼が急増し、ミック・ハラーのような高額の弁護料が必要となる弁護士への刑事事件の弁護依頼は減少していた。

そこで、ハラーは住宅ローンを払えなくなった消費者に対する銀行による詐欺的な差し押さえに注目し、不当な差し押さえを訴える人々の弁護に明け暮れる日々を送っていた。

そんな中、ハラーの依頼人の一人で、銀行に対して熱烈なデモ行為を行っていたシングルマザーのリサ・トランメルがその差し押さえに携わっていた銀行の副頭取撲殺の容疑で逮捕されるという事件が発生した。彼女は、銀行に接近禁止命令が出されていたにもかかわらず、事件当日には銀行近くで目撃されていたり、家のガレージから犯行に使われたものとみられる金づちがなくなっていたりと、不利な証拠が山ほどある。

 

果たして、ハラーは彼女を無罪に導くことができるのか。

 

弁護の仕方やロジックは面白いものの、終始イライラさせられる依頼人とマンネリ気味のラスト※以下ネタバレ注意

リンカーン弁護士シリーズの第4作目となった『証言拒否』は、なんとあのハラーがとうとう事務所を持つようになったり、若い弁護士を雇ったりと新たな展開が発生している。

 

部下となった弁護士の登場と、証言拒否の使い方には納得と驚き

この若い弁護士はその若さゆえに青臭い。だが、その青臭さが娘の影響もあって刑事弁護士への仕事に疑問が生じているハラーの心に突き刺さることになる。はじめはこの若い弁護士の登場は特に効果的な配役とは思えなかったのだけれども、最後にはハラーの心理状況にとって大きな役割を果たしていることが分かり、「とりあえず新鮮味を出すために新たなキャラを出してみました」というものでは決していないと納得させられる。こうした新キャラにもしっかりと意味を持たせている所もさすがマイクル・コナリーと思わせる部分である。

 

また、新キャラもいいのだが、もちろんハラーの一番の見せ場は裁判所での弁護である。本作のハラーは様々な不利な証拠が依頼人にある中で、ある人物の「証言拒否」を引き出す。それによって、ハラーの依頼人以外の第三者が真犯人なのではないか、と陪審員に強く印象付けることに成功し、見事無罪を勝ち取るのだ。

通常の裁判では、真犯人を無罪だと断定してしまうミスよりも、真犯人ではない別の人物を犯人として刑務所にぶちこんでしまうミスを回避しようとする。無関係な人の人生を冤罪で台無しにするのは犯人を野放しにしておくよりも道徳的にまずいという判断だ。

今回のハラーはそれを見事についたと言える。タイトルの「証言拒否」はどう弁護に使えるのか、どこで出てくるのかと思いながら読んでいると予想外の使い方でなるほどと思わせられる。やはり、こうした裁判ならではの戦術を知ることはリーガルサスペンスの面白みの一つだ。

 

ただ、依頼人とラストにはやや不満も

しかし、今回の依頼人には非常にイライラさせられた。これまでのリンカーン弁護士シリーズの依頼人は、いずれも知的で冷静な依頼人であり、それゆえある程度好感の持てる人物であった。それに対して、本作の依頼人はすぐに感情的になり、ハラーの忠告もきかずにマスコミやハリウッド関係者に接触し、自分のことを話したがる。正直に言えば、僕が一番嫌いなタイプの人間だ。それゆえに、本作を読んでいる際にはしばしば不快な気持ちにならざるを得なかった。そこは残念である。

 

また、ラストも結局はハラーが弁護した事件では無罪を勝ち取るが、それ以外の罪がバレて結局は警察に捕まってしまうというものだ。これは一作目とほぼ同じラストであり、マンネリ気味を感じてしまう。水戸黄門のような分かりやすい勧善懲悪ものの展開がお好きな方には良いのかもしれないが、なんとか僕たちの予想を裏切るラストにしてほしいと思う。

 

ただ、ラストが一定のパターンになるのはしょうがないかな、とも思う。なにぜ、真犯人のラストは、(1)ハラーが弁護に失敗して刑務所に服役するか、(2)真犯人はさばかれず野放しにされる、(3)ハラーは無罪にするが、他の罪で服役させる、の3つしかないだろうが、そのうち最初に二つは後味が悪い。だからどうしても別の罪で服役させるというラストにせざるを得ないのは理解できるからだ。

 

それでも、やはり一読者として無責任なことを言わせてもらえれば、期待を超えるラストをコナリーさんにはぜひとも考えついて欲しいところではある。もしかしたら、それをマイクル・コナリーもラストのマンネリを感じて、新鮮味を出すために本作のラストではハラーが検事に転職する意思を持つようになったことを描いているのかもしれない。

 

コナリーさんがどう考えているにせよ、また多少マンネリ気味であろうとリンカーン弁護士シリーズがいまだに面白い小説であることは間違いないので、次回作を心待ちにするばかりである。

 

 

*1:サブプライムローンとは、アメリカなどで住宅ローンを借りるさいに優良顧客(プライム)よりも、下(サブ)のランクの顧客向けに貸し出されるローンのこと。当然、プライム顧客よりはリスクが高いため住宅ローンの利率も高い。しかし、当時の金融業界は、住宅価格が上昇していくと誰しも思っていたため、ローンの借り手は返済が苦しくなっても家を売ってしまえば元手を回収できると思っており、銀行などの貸し手も家を返済が滞っても家を売らせれば回収できると考えていた。今になって考えてみれば、どう考えても永続しないシステムではある。