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ミステリー好き大学教員の気ままなレビュー

とある私立大学のボンクラ大学教員がミステリーのレビューをメインに気ままに思ったことを書きなぐるブログです。

【読書レビュー】柳広司『新世界』※ネタバレあり

 

新世界 (角川文庫)

新世界 (角川文庫)

 

 原爆の恐ろしさをアメリカ側に焦点を当てて描いた異色のミステリー小説

以前にこのブログでも紹介した『ジョーカー・ゲーム』や、『トーキョー・プリズン』で、この筆者である柳広司さんは、「人の心理をうまく描き出している」と関心させられたことを書いたが、本書においてもそのうまさを実感することになった。

あらすじ

舞台は、第二次世界大戦終戦後のアメリカ、ロスアラモス国立研究所
そこでは、原爆をつくるためにアメリカ全土から天才たちが集められていた。

そして、見事原爆を完成させ、第二次世界大戦を終戦へと導いた彼らは、この研究所の周囲に作られた街の人々とともに、祝賀ムードに包まれていた。

しかし、その祝宴の最中、一つの爆発事件と殺人事件が起きる。
ロスアラモス国立研究所の所長であるオッペンハイマーは、その殺人事件の犯人探しを親友である主人公に頼むのだが・・・

 

ミステリーではあるが、その本質は原爆に関わった人たちの狂気

この作品は、ミステリーというカテゴリーに入れられているが、その本質は犯人探しにあるわけではない。むしろ、この作品の本質は、原爆にかかわった人たちの狂気にある。

原爆というかつてないほどの威力をもった兵器を開発した天才達と、その原爆を実際に広島・長崎に投下したパイロットたちは、自分たちの行動が正しかったと信じようとする。しかしながら、それと同時に自分たちの行為によって数多くの人が即死、もしくは放射能からくる様々な症状に苦しみながら死んでいくという現実に自分自身も苦しむことになる。


ある人は自己正当化を見事に行い、別の人は自らがしたことの重みにつぶされてしまう。そして、自己正当化ができた人間は一見理性的な行動を維持しているが、それが出来なかった人間は“狂人”として排除されてしまう。

どちらが正しいのかは誰にも分からない。
“正気”とは何なのか。

本書は、非常に重いテーマを投げかけており、色々と考えさせられるミステリー小説となっている。

 

 

mysterymania.hatenablog.com

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