ミステリー好き大学教員の気ままなレビュー

とある私立大学のボンクラ大学教員がミステリーのレビューをメインに気ままに思ったことを書きなぐるブログです。

【読書レビュー】北山猛邦『『アリス・ミラー城』殺人事件(講談社文庫)』

 

『アリス・ミラー城』殺人事件 (講談社文庫)

『アリス・ミラー城』殺人事件 (講談社文庫)

 

 『『アリス・ミラー城』殺人事件(講談社文庫)』のあらすじ

鏡の向こうに足を踏み入れた途端、チェス盤のような空間に入り込む――『鏡の国のアリス』の世界を思わせる「アリス・ミラー城」。ここに集まった探偵たちが、チェスの駒のように次々と殺されていく。誰が、なぜ、どうやって?全てが信じられなくなる恐怖を超えられるのは……。古典名作に挑むミステリ。

amazonに書いてあるあらすじは上記のようなものであるが、これだと全く分からないので、簡単に補足しておくと、

孤島に建てられた館「アリス・ミラー城」

その館の現オーナーであるルディは、その館に隠されているとされる「アリス・ミラー」を探してもらうべく何人もの探偵を「アリス・ミラー城」に呼び寄せるが、探偵が終結したその日の夜に一人の探偵が密室状態で殺されたことを皮切りに次々と探偵たちが殺されていく。果たして、密室はどうやって作られたのか、連続殺人犯は誰なのか?

 という話である。

やや釈然としないオチではあるが、そこまでは抜群に面白い(以下ネタバレ注意)

この小説は、帰省中に兄に「一人死んだあたりからもう続きが気になって仕方が無くなるぞ。あと、最後の1Pまで読んだら大変なことになるから、最後は絶対に先に見るなよ」と勧められ、読んだ本。

その言葉に全く嘘はなく、読み始めると一日足らずで読み切ってしまった。

 

登場人物の魅力が引き立てるストーリー展開

その最大の理由は登場人物の魅力ではないだろうか。

登場人物には一人一人個性があり、少なくとも何人かは心から「生き残ってくれ!」と祈りながら読み進めたし、ある探偵が死んでしまった時には「嘘だろ!?、お前まで死んでしまうのか!?」と非常に驚きと悲しみを味わった。

それほどまでに、一人一人の人物が小説の中で生き生きと動いており、ついつい好きになってしまう。そして、だからこそ、息つく間もなくその探偵が一人一人と殺されていく様子にハラハラドキドキさせられ、先が気になって仕方が無くなる。

 

しかしながら、いくつかの点で釈然としない部分も。

本書では、叙述トリックによって巧妙に隠された探偵(=犯人)がいるが、その存在を前提とした場合、ミスリードを狙いすぎて不自然な部分があるように思えてしまう点だ。

例えば、探偵が集まった際に全員の自己紹介をしておこうという提案がなされ、一人一人登場人物が簡単に自己紹介をしていく場面があるが、叙述トリックによって隠されている探偵”以外”の紹介が終わったのち、

「まだ彼女の紹介が終わっておらん」という発言を受けて、別の登場人物が

「誰が残ってる?」とか「彼女?」と言って首を傾げたといったように、あたかもその場にいる全員の紹介が終わっているかのような反応がなされるのは明かに不自然である。

犯人はどれだけ影の薄い人物なのかとツッコミたくなる。たかが11人程度の紹介であれば、探偵を名乗るならば内容は覚えてなくても誰がしゃべったかぐらいは把握できておかないとおかしい。

 

また、殺された探偵の一人が犯人の名前を他の探偵に対して叫ぶ場面があるが、その発言を誰一人として再度取り上げようとしないのも不自然である。

要するに、ところどころでこの登場人物が記憶喪失と呼べるほどバカに描かれている点は納得いかない。

(とはいえ、オチを読むまではそこまで気にならなかったのも事実)

 

 他にも、館のオーナーであるルディが呼び寄せた探偵に対して

「『アリスミラー』を手に入れられるのは最後まで生き残った人間のみ。…(中略)…『最後』という言葉の意味を、真実をより深く知ることができたなら、その人こそ『アリスミラー』を依頼者のもとへ持って帰ってくることができるかもしれませんネ」

と意味深に語っているが結局、このルディも殺されてしまい、『最後』という言葉の意味も分からぬままである。

 

全体としては良作

他にも細かい所を言い出せばキリがないが、全体的な評価としては面白い部類に入ることは間違いない。オススメできる小説である。

 

 

 

【読書レビュー】島田荘司『斜め屋敷の犯罪 (講談社文庫)』

 

改訂完全版 斜め屋敷の犯罪 (講談社文庫)
 

 『斜め屋敷の犯罪 』のあらすじ

北海道の最北端・宗谷岬に傾いて建つ館――通称「斜め屋敷」。雪降る聖夜にこの奇妙な館でパーティが開かれたが、翌日、密室状態の部屋で招待客の死体が発見された。人々が恐慌を来す中、さらに続く惨劇。御手洗潔は謎をどう解くのか!?

 

 トリックはとんでも系で、犯人もある程度は予想可能。しかし、全体として漂う奇妙な雰囲気がGOOD

この物語のトリックはまさに屋敷が斜めであることにポイントがあり、トリックのネタ晴らしをされれば、その理由もはっきりとわかる。しかし、正直に言えば、最初に読んだ感想は「そんなことありえるのか?」というものだ。御手洗潔シリーズの第一作である『占星術殺人事件』のトリックもかなりトリッキーではあったが、まだ「なるほど」と思わせてくれる部分があった。しかし、本作の『斜め屋敷」では、どうも腑に落ちない。

 

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【読書レビュー】占星術殺人事件 改訂完全版 (講談社文庫)※ネタバレあり

 

占星術殺人事件 改訂完全版 (講談社文庫)
 

 

あらすじ

舞台は1979年。

本作の主人公である占星術師・御手洗潔の元に飯田美沙子という女性が訪れる。彼女は、父の遺品を整理していた所、その父が40年前に起きた殺人事件の関係者であることを告白する手記を見つけ、真相を確かめるべく探偵のような才能をもつ御手洗に調査を依頼しにきたという。

 

その40年前に起きた殺人事件とは、とある画家が密室で殺害された後、その娘たち6人も次々と体の一部を切り取られた姿で日本各地で見つかったという猟奇的殺人事件であった。その娘たちの殺害方法は画家が手記にしたためていた、占星術にしたがって、6人の処女からそれぞれの星座に合わせて身体の一部分を切り取り、それを合成して完璧な女性を作り出すという方法そのものだったのである。

 

誰が手記に従って殺したのか、また切り取られた肉体はどうなったのか。様々な謎は解かれることなく、占星術殺人事件と名付けられ、迷宮入りとなっていた。

 

始めは興味を持っていなかった御手洗だが、友人の石岡から占星術殺人事件のあらましを聞き次第に興味を示すようになる…

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【映画レビュー】ブラックホーク・ダウン※ネタバレあり

 

サダム・フセインも参考にしたアメリカの戦争映画

 

アメリカが軍事介入していたソマリアから撤退するきっかけとなった「モガディッシュの戦闘」を扱った本作は、対アメリカの戦略を考える上で、サダム・フセインも参考にしたと言われている。そして、緊張感たっぷりに戦闘の恐ろしさを伝えてくれ、日本人で良かったと心から思わせてくれる映画である。

あらすじ

冷戦終結後に内戦が発生したソマリアでは、和平に反対する将軍・モハメッド・ファッラ・アイディードが他部族への食糧を封鎖したため、アイディード派以外の部族では飢餓状態が生じていた。そのため、国際連合は難民への食糧援助を行うとともに、軍事介入による和平の実現を果たそうとしていた。

 

そこで、米軍はアイディードの副官2人が集まる会議を強襲し、捕虜にするという作戦を立てる。作戦立案時点では100人ほどの兵士でわずか30分で終わるはずの作戦であったが、空から作戦の援護を行っていたブラックホークが撃墜されたことをきっかけに、米軍は主導権を次第に失って行く…

 

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【書評レビュー】マイクル・コナリー『判決破棄 リンカーン弁護士(上・下)

 

 

コナリー作品のドリームチーム結成も、やや不完全燃焼か

 リンカーン弁護士シリーズの第3作目となった『判決破棄-The REVERSAL-』は、ミッキー・ハラーと、その元妻で検事のマギー・マクファーソン、警察官のボッシュがチームになって被告人を追求するというコナリーファンにはたまらない展開で始まる。しかし、被告人を追求する最後のピースはぽっと出の人物であるため、爽快感には欠けるラストではある。

 

あらすじ

本作品の事件の発端は24年前の殺人事件の判決破棄である。

24年前、ある12歳の幼女が自宅前で姉とかくれんぼをしていた所、何者かによって誘拐され、殺害されてしまった。警察は、その犯行の現場を見ていた姉の証言や犯人の車から検出された被害者の髪、被害者の服から発見された精液をもとにジェサップを逮捕し、有罪判決にまで持っていく。

しかし、それから24年経過し、DNA鑑定技術が発達した“現在”に再び精液のDNA鑑定をした所、犯人のDNAとは異なっており、その精液は殺された幼女の義父と一致することが判明した。その結果を受け、判事はこの24年前判決を破棄し、事件を差し戻し審査することを決定したのである。

そこで、ロサンジェルス群地区検事長は、かつて事件を担当した検察をかばうために証拠を隠滅しているなどの批判をかわしつつ、検察の追求が正しいことを再び示すために、第三者でありかつ有能な法律家であるミッキー・ハラーを特別検察官として任命する。

ハラーは、その任を受ける条件として、元妻のマクファースンやボッシュとチームを組ませることを承認させる。果たして、ハラーたちは勝算皆無と言われた再審に勝つことができるのか。

 

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【読書レビュー】マイクル・コナリー『証言拒否』※ネタバレあり

 

 

法廷での弁護は面白いものの、ラストはやや水戸黄門的なマンネリ感も

リンカーン弁護士シリーズ第4作目となった本作は、プロセス自体は面白いものの、犯人を懲らしめる方法としてはややマンネリを感じさせるものとなってしまった。

あらすじ

時は2012年、サブプライムローン問題が大爆発した後のアメリカ*1リーマンショックによって景気が急速に悪化したアメリカでは、金をもっている犯罪者が減少した結果、弁護料が安い公選弁護士への依頼が急増し、ミック・ハラーのような高額の弁護料が必要となる弁護士への刑事事件の弁護依頼は減少していた。

そこで、ハラーは住宅ローンを払えなくなった消費者に対する銀行による詐欺的な差し押さえに注目し、不当な差し押さえを訴える人々の弁護に明け暮れる日々を送っていた。

そんな中、ハラーの依頼人の一人で、銀行に対して熱烈なデモ行為を行っていたシングルマザーのリサ・トランメルがその差し押さえに携わっていた銀行の副頭取撲殺の容疑で逮捕されるという事件が発生した。彼女は、銀行に接近禁止命令が出されていたにもかかわらず、事件当日には銀行近くで目撃されていたり、家のガレージから犯行に使われたものとみられる金づちがなくなっていたりと、不利な証拠が山ほどある。

 

果たして、ハラーは彼女を無罪に導くことができるのか。

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【読書レビュー】森博嗣『黒猫の三角』※ネタバレあり

 

黒猫の三角 (講談社文庫)

黒猫の三角 (講談社文庫)

 

森博嗣との決別を決意させてくれたミステリー小説

これまで何冊か森博嗣の本を読んできたが、本作を読んではっきりと分かった。
僕は森博嗣作品との相性が悪いと。

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