サダム・フセインも参考にしたアメリカの戦争映画
アメリカが軍事介入していたソマリアから撤退するきっかけとなった「モガディッシュの戦闘」を扱った本作は、対アメリカの戦略を考える上で、サダム・フセインも参考にしたと言われている。そして、緊張感たっぷりに戦闘の恐ろしさを伝えてくれ、日本人で良かったと心から思わせてくれる映画である。
あらすじ
冷戦終結後に内戦が発生したソマリアでは、和平に反対する将軍・モハメッド・ファッラ・アイディードが他部族への食糧を封鎖したため、アイディード派以外の部族では飢餓状態が生じていた。そのため、国際連合は難民への食糧援助を行うとともに、軍事介入による和平の実現を果たそうとしていた。
そこで、米軍はアイディードの副官2人が集まる会議を強襲し、捕虜にするという作戦を立てる。作戦立案時点では100人ほどの兵士でわずか30分で終わるはずの作戦であったが、空から作戦の援護を行っていたブラックホークが撃墜されたことをきっかけに、米軍は主導権を次第に失って行く…
最初から最後まで緊張感無しででは観られない※以下ネタバレ注意
アイディードの副官を捕虜にするという作戦が米軍兵士たちに伝えられると、ある兵士は「どうせあいつらなんて石しか投げてこないさ」と強がり、ある兵士は出撃しない兵士に遺言状を託し、またある兵士は家族に電話でメッセージを残すシーンが綴られる。このシーンが否が応でも観るものに緊張感を高め、映画の中に引きずり込まれることになる。
しかも、いざ作戦が始まれば、いきなり軍用ヘリであるブラックホークがソマリア民兵の放ったRPG(対戦車用ロケット)で撃墜されてしまう。そして、様々な建物の窓や屋上、通路などありとあらゆる場所からソマリア民兵が米軍を狙ってマシンガンやRPGを打ってくる。緊張の糸が張りつめっぱなしである。
そうはいっても米軍の方が圧倒的な火力を持っているんだからそんなに危険はないんじゃないの?
そう思う人がいるかもしれない。しかし、その明らかに優れた性能の武器を持った練度も高い兵士にもかかわらず、ソマリア民兵の数の多さの前に米軍は傷つき、追いつめられてしまうのである。
フレデリック・ランチェスターによれば、近代における軍の戦闘力は以下のような式で表される*1。
軍の戦闘力=武器の性能×兵員数×兵員数
つまり、武器の性能差よりも兵員数の差の方が戦闘力を大きく左右するというのである。
このモガディッシュの戦闘に米軍が当初投入した兵員数は100である。それに対して、ソマリア民兵の数は不明ではあるが、米軍発表によるとこの戦闘でのソマリア民兵・一般人の死亡者が1000人であったことから、最低でも2000人ほどのソマリア兵が参加していたと思われる。
仮にソマリア兵が2000だとすれば、ソマリア民兵軍の戦闘力は、(ソマリア兵の武器性能)×4.000,000である。それに対して、米軍の戦闘力は、(米軍の武器性能)×10,000である。つまり、米軍はソマリア兵よりも400倍優れた武器を保有していなければ勝てない戦闘であった。
こう考えると、非常に米軍にとって厳しい戦闘であったことが分かる。実際に、アメリカ軍が状況を打開し始めたのは、隣国のパキスタン軍と連携を取り、大量に兵士を投入することができるようになった後である。
率直な感想はただただ「日本人で良かった」ということ
正直に言えば、実際の戦闘がこれほどまでに悲惨で恐ろしいものかはこの映画を観るまで理解していなかった。もちろん、ある程度脚色してあるのだろうが、それを差し引いて考えても、本作を見終わった感想は「日本人で良かった」というものだ。
amazonのレビューを読んでいると中には自らの命を顧みず、瀕死の仲間を助けに行った兵士をバカな判断だとしか思えないと酷評している人もいる。しかし、おそらくはこれは平和ボケした日本人の感想なのだろうし、そうした状況の心理状態を理解できない、もしくはする必要のない僕たちはとても幸せなことなのだ。
*1:いわゆるランチェスターの法則。日本では経営戦略に応用されたものが有名かもしれない