ミステリー好き大学教員の気ままなレビュー

とある私立大学のボンクラ大学教員がミステリーのレビューをメインに気ままに思ったことを書きなぐるブログです。

【読書レビュー】柳広司『トーキョー・プリズン』※ネタバレあり

 

トーキョー・プリズン (角川文庫)

トーキョー・プリズン (角川文庫)

 

ミステリーも弱く、すっきりしない読後感

 『トーキョー・プリズン』は、密室殺人のトリックには納得がいかず、またラストもスッキリとしないスパイミステリーだ。これを読むなら以前にも紹介した『ジョーカー・ゲーム』の方が何倍も面白い。

あらすじ

舞台は戦後まもないトーキョー、東京裁判にかけられる日本人戦犯が収容されているスガモプリズン。

 

日本で捕虜となった可能性のある友人を探しにきたニュージーランドの私立探偵・フェアフィールドは、プリズン内での情報収集を認めてもらう条件として、記憶喪失になりながらもプリズン内で発生していたアメリカ兵士密室毒殺事件の捜査に関わっていたキジマの手助けをすることになる。

 

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【読書レビュー】柳広司『ジョーカー・ゲーム』

 

ジョーカー・ゲーム (角川文庫)

ジョーカー・ゲーム (角川文庫)

 

第二次世界大戦中の日本のスパイ活動を題材にしたライトに読めるミステリースパイ小説

ジョーカーゲーム』は、殺人を厭わないイメージのあるスパイとは異なる納得感のスパイ像を新たに提示してくれるサクサクッと読めてしまう良作ミステリー短編集だ。

 

あらすじ

「殺すな、死ぬな」

 

死から遠ざかること、それが日本のスパイ組織、D機関の構成員に与えられた基本原則。

 

死体は警察によって捜査の対象となる。捜査の対象となれば、そこからスパイに関するなんらかの情報が明らかにされてしまう可能性がある。だから、人を殺すことも、自分が死ぬこともスパイとして最悪の行為だ。

 

かつて、第一次世界大戦時にヨーロッパで“魔術師”と恐れられ、全くの痕跡を残さずにスパイ活動を行っていながらも、その優秀さゆえに仲間に裏切られた男、結城中佐。

 

彼にスパイ活動の極意を教わる生徒はこのように教えられる。

ナルトや007とは異なるスパイ像とスピード感のある展開が魅力

ナルトや007のようにもはや隠れることをやめた忍者やスパイとは違い、彼らの活動自体は、極めて地味だ。ひっそりと任地におもむき、誰にも素顔を気づかせることなく活動する。問題を解決する時も自らの手を下さない。キーパーソンにそれとなくヒントを与えて、自然と解決するような状況をつくり出す。スパイは誰かの記憶に残ることは避けなければならないのだ。

 

全能にも思えるスパイたちが暗躍する本作は、ともすればご都合主義にもなりかねない危険をはらんでいるが、本作はそうしたことを感じさせない説得力がある。また、極めて合理的な考え方をするD機関が、古い日本的な考え方をし、D機関を忌み嫌っている陸軍を手玉にとる様は見ていて愉快の一言に尽きる。

 

物語は短編集だけあって、スピード感たっぷりなのもGOODだ。決して最後まで飽きることなく読み進めること間違いなしである。

 



 

【読書レビュー】フレッド・ヴァルガス(藤田真利子訳)『彼の個人的な運命』

 

彼の個人的な運命 (創元推理文庫)

彼の個人的な運命 (創元推理文庫)

 

二つの凄惨な殺人事件。

現場に残された指紋、現場付近での目的証言。
この二つから容疑者となった発達障害の男、クレマン。
幼いころにクレマンの面倒を見た元売春婦のマルトからの依頼でこの事件の真相に乗り出した元内務省調査員のルイは、クレマンが実は犯人ではないかと疑いながらも、真相に迫っていく。


最後まで犯人を絞らせず、面白い作品だった。
そこはかとなく漂う暗さもクレマンのとぼけたキャラクターによっていい具合に和らいでいると思う。


この本を読んでから知ったのだけれども、この本は三聖人シリーズと言われている作品の第三作目。なので、三聖人と言われている人のキャラクターが少しつかみにくかった。

 

もし、この本を読むのなら、先に『死者を起こせ (創元推理文庫) と『論理は右手に (創元推理文庫)』を読んでおいた 方が楽しめると思う。

 

実際、他の方のレビューを見てると、三聖人のやり取りがおもしろかったという感想が多かったが、僕はそこまで面白いとは思わなかった。きっと本作ではあまり描かれていない三聖人の特徴をつかんでいれば、もっと面白く読めたのだろう。