ミステリー好き大学教員の気ままなレビュー

とある私立大学のボンクラ大学教員がミステリーのレビューをメインに気ままに思ったことを書きなぐるブログです。

【映画レビュー】シャッター・アイランド (字幕版)※ネタバレあり

 

 

 『シャッターアイランド』は、全体的に暗い雰囲気が漂っているため、気軽に観れる映画というわけではないが、強いメッセージ性と二転三転するシナリオから目が離せない面白い映画だ。

 
この映画がamazonプライムビデオで0円で見れるとはいい時代になりました。
(正確には3900円、学生なら1900円のプライム会員年会費を払えばですが)
 

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【読書レビュー】リンカーン弁護士(上・下)講談社文庫、マイケルコナリー著

 

リンカーン弁護士(上) (講談社文庫)

リンカーン弁護士(上) (講談社文庫)

 

初めて読んだアメリカのリーガルサスペンスという分野の小説。amazonの評判が良かったので読んでみたが、上巻の終わりに差し掛かるまでは正直に言えば「失敗だったかな」という考えがところどころ頭によぎっていた。しかし、その上巻の終わり頃になると、依頼人の裏の顔とそのしたたかさに驚かされ、ハラーがその苦境をどう切り抜けるのかが気になって物語に一気に引き込まれてしまった。

 

結局、上下巻を読み終わってから、映画化されているとしってamazonプライムビデオで映画版まで観たり、続編に手を出すまでにハマってしまった。

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【映画レビュー】鑑定士と顔のない依頼人※ネタバレあり

 

 監督トルナトーレ×音楽モリコーネが仕掛ける、豪華で知的で刺激的な謎が散りばめられた“極上のミステリー"。
真実が明らかになる時、誰もがその“衝撃"にのみこまれる―!

という触れ込みのこの映画。ミステリーとしてみるとがっかりすること間違いなしであり、恋愛映画としてみるのが正しいのかもしれない。

 

この映画の始まりは、優れた鑑定眼をもつオークショニア(競売人)のヴァージル・オールドマンの所に資産家の両親が死んでしまい、その広大な屋敷に残された美術品の査定をしてほしいという依頼が若い女性から舞い込むところから始まる。

 

これは一見ありふれた依頼だったが、依頼人は様々な口実を作ってオールドマンの前に姿を現さない。この依頼人の態度のオールドマンはたびたび苛立ちを覚えるが次第にこの依頼人がどんな人物か気になるようになり…

 

※以下ネタバレ注意

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【読書レビュー】サイコパスを探せ! : 「狂気」をめぐる冒険

 

サイコパスを探せ! : 「狂気」をめぐる冒険

サイコパスを探せ! : 「狂気」をめぐる冒険

 

 

中居正広主演のドラマ「ATARU」に出てきた精神科医

「精神医学は医学の中で最も新たな病気が見つかっている領域だ。」
と言っていた。

確かに、これまで「なんとなく何事にもやる気がでない」がゆえに社会的にダメ人間扱いされてきた人たちが「うつ病」という病であることが認知されるようになることで、社会からの目が優しくなってきた、という貢献点はあると思う。


しかし、それと同時に、彼ら、精神科医は“一般的な人間”から逸脱した性格、特性を次々と“病”というレッテルを貼り、自らの権力領域を拡大させているようにも思える。


この『サイコパスを探せ!』も同様のことを私たちに教えてくれる。

 

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【読書レビュー】密室殺人ゲーム王手飛車取り (講談社文庫)

 

密室殺人ゲーム王手飛車取り (講談社文庫)

密室殺人ゲーム王手飛車取り (講談社文庫)

 

 

ネットのチャットに集まった5人(頭狂人・044APD・aXe・ザンギャ君・伴道全教授)がそれぞれ趣向のこらした殺人を犯し、他の4人で殺害の方法や次の被害者の予想などの謎解きを行うクイズ形式の探偵ゲーム。

 

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【読書レビュー】柳広司『新世界』※ネタバレあり

 

新世界 (角川文庫)

新世界 (角川文庫)

 

 原爆の恐ろしさをアメリカ側に焦点を当てて描いた異色のミステリー小説

以前にこのブログでも紹介した『ジョーカー・ゲーム』や、『トーキョー・プリズン』で、この筆者である柳広司さんは、「人の心理をうまく描き出している」と関心させられたことを書いたが、本書においてもそのうまさを実感することになった。

あらすじ

舞台は、第二次世界大戦終戦後のアメリカ、ロスアラモス国立研究所
そこでは、原爆をつくるためにアメリカ全土から天才たちが集められていた。

そして、見事原爆を完成させ、第二次世界大戦を終戦へと導いた彼らは、この研究所の周囲に作られた街の人々とともに、祝賀ムードに包まれていた。

しかし、その祝宴の最中、一つの爆発事件と殺人事件が起きる。
ロスアラモス国立研究所の所長であるオッペンハイマーは、その殺人事件の犯人探しを親友である主人公に頼むのだが・・・

 

ミステリーではあるが、その本質は原爆に関わった人たちの狂気

この作品は、ミステリーというカテゴリーに入れられているが、その本質は犯人探しにあるわけではない。むしろ、この作品の本質は、原爆にかかわった人たちの狂気にある。

原爆というかつてないほどの威力をもった兵器を開発した天才達と、その原爆を実際に広島・長崎に投下したパイロットたちは、自分たちの行動が正しかったと信じようとする。しかしながら、それと同時に自分たちの行為によって数多くの人が即死、もしくは放射能からくる様々な症状に苦しみながら死んでいくという現実に自分自身も苦しむことになる。


ある人は自己正当化を見事に行い、別の人は自らがしたことの重みにつぶされてしまう。そして、自己正当化ができた人間は一見理性的な行動を維持しているが、それが出来なかった人間は“狂人”として排除されてしまう。

どちらが正しいのかは誰にも分からない。
“正気”とは何なのか。

本書は、非常に重いテーマを投げかけており、色々と考えさせられるミステリー小説となっている。

 

 

mysterymania.hatenablog.com

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【読書レビュー】東野圭吾『聖女の救済』

 

聖女の救済 (文春文庫)

聖女の救済 (文春文庫)

 

心理描写に優れた「ガリレオ」シリーズの長編ミステリー 

「妻はこどもを産んでこそ意味がある。」と言い切り、結婚後1年たっても子どもができなければ離婚すると言う真柴義孝と、それを承知で結婚に踏み切った妻・綾音。

妻の綾音は、夫の愛を信じ、”幸せな”結婚生活を送るが、結局一年たっても子どもは出来なかった。そのため、真柴義孝は妻・綾音に対して、「 初めに決めたルールだ」と告げ、離婚を切り出す。

その時、妻・綾音の”完全な”殺人計画が動き出す・・・


「実におもしろい」

この言葉は、ガリレオ先生こと湯川先生の口癖であるけれど、
本作を形容するに最も適切な言葉ではないだろうか。

通学の時間の暇つぶしのために学校から帰る途中の本屋で買ったのだけれど、
結局帰りの電車の中でずっぽりとはまってしまい、家に帰ってからも寝る時間を削ってまで読み切ってしまった。

面白い小説の欠点は、通学・通勤の暇つぶしのために買っても、結局家で読んでしまい暇つぶしにならないことかもしれない。

その話はおいといて、本書はトリックの実現可能性についての批判はあるかもしれないが、全体的に非常に面白い仕上がりになっている。

容疑者となっている綾音に対して好印象を抱き、なんとか容疑を晴らしてあげたいと無意識のうちに考えながら操作を行う草なぎ刑事。

その危うさに気づき、女の勘から綾音があやしいと睨み、逆に綾音が犯人である証拠を懸命に探す部下の内海刑事。

そして、内海から草薙の捜査の危うさを聞きながらも、「彼は心情によって事実を見逃したりするような捜査はしない」と草薙刑事への信頼感を表明し、論理的に犯罪のトリックへの仮説を一つずつ考察していく物理学者・湯川准教授。

彼(彼女)らは、それぞれ異なる捜査方針を持ちながらも、次第に真実へと向かっていく。

 

そこにあるのは、単なる謎解きではない。人の機微が、人の物語がある。

もちろん、謎解き自体も非常に面白い。
随所にちりばめられた伏線が、後半の謎解きの部分でうまく回収されている。

なにより悔しいのは、伏線であることが割と分かりやすく提示されているにもかかわらず、それの手掛かりを用いて自分では”真実”に到達することが出来なったことだ。

本書を読んている最中、何度も「この行動は違和感があるな。怪しいぞ」と思っても、それを基にトリックを見抜くことは非常に難しい。

それだけに、最後の謎解きでは唸らせられたし、そこがこの筆者のミステリー作家としての力量を見せつけられた点でもある。

もちろん、本作の犯罪はある意味私たちの常識を遥かに超えた犯罪であるため、実行可能性について信じられないという批判がしばしばある。しかし、僕自身はそれだけ犯人の執念がすさまじいものだったというように好意的に受け止めたいとと思う。

なにはともあれ、本書は一読の価値が十分にある作品だと思う。
本作を読む上で注意すべき点があるとすれば、湯川准教授と二人の刑事(草薙と内海)との関係を分かっていた方が面白く読めると思うので、まだ「ガリレオ」シリーズを読んだ事ない人は、『探偵ガリレオ (文春文庫)』を読むか、第一期のドラマの一話目だけでもいいので観ておいた方がよいかもしれない。